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大阪地方裁判所 平成2年(ワ)9807号 判決 1992年1月24日

原告

フジ建機リース株式会社

右代表者代表取締役

花岡伊佐子

右訴訟代理人弁護士

藤田邦彦

被告

株式会社韓国システムエンジニアリング

右代表者代表理事

許明信

右訴訟代理人弁護士

吉田清悟

主文

一  本件訴を却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対して、別紙機械目録記載の機械を引き渡せ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告の本案前の答弁

主文同旨

三  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

(なお、別紙機械目録記載の機械を、以下「本件機械」という。)

一  請求原因

1  本件機械の購入

原告は、一九八九年六月二六日、株式会社蔵田から、本件機械を九〇〇〇万円で購入し、同年七月七日に右代金を支払った。

2  賃貸借契約

原告は被告との間で、一九八九年八月一〇日に、本件機械の賃貸借契約を次のとおり締結し、これを被告に引き渡した。

(一) 設置場所 韓国・釜山市

(二) 賃貸借期間 一九八九年九月二八日から一九九〇年三月二七日までの六か月間

(デモンストレーション期間)

(三) 賃貸料 月額一〇万円

(四) 賃貸料の支払方法 毎月二六日、日本円で日本国の銀行に送金する。

3  賃貸借期間(デモンストレーション期間)の延長

本件機械は、釜山市直轄上下道局が、注文主である管更生工事(H&B工法)にのみ使用する試用機(デモンストレーション機)で、賃貸借期間六か月(一九九〇年三月二七日まで)と予定していたが、右工事が延長したため、右期間は同工事が終了した一九九〇年七月末ころまで延長された。

4  合意管轄

本件機械の賃貸借契約に際して、本契約に関し争いが生じた場合には、日本国内の地方裁判所又は簡易裁判所をもって管轄裁判所とする旨の合意があり、契約書(<書証番号略>)に、その旨の記載がある。

5  結論

よって、原告は被告に対し、賃貸借契約の終了にもとづき、本件機械の引渡を求める。

二  被告の本案前の主張

1  被告は、日本国内に営業所を有しておらず、裁判管轄は、被告の本店所在地である韓国釜山地方法院にある。

2  本件機械についての賃貸借契約は存在しない。

本件機械は、株式会社蔵田の所有であったものを、許明信に譲渡したのであり(譲渡書は<書証番号略>)、通関の便宜のため、内容虚偽の契約書(<書証番号略>)を作成したのである。

3  よって、本件訴は却下されるべきである。

三  請求原因に対する認否及び被告の主張

(認否)

全部否認ないし争う。

(被告の主張)

本件機械についての賃貸借契約は存在しない。

本件機械は、株式会社蔵田の所有であったものを、許明信に譲渡したものである。

なお、譲渡書(<書証番号略>)記載の譲渡条件は、既にすべて成就された。

第三  証拠<省略>

理由

一<書証番号略>、証人藏田作治の証言、被告代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

株式会社蔵田は、パイプの更生機械の製造、販売を業とする会社であり、藏田作治は、同社の代表取締役である(<書証番号略>、証人藏田作治)。

株式会社藏田は、韓国には水道管の老朽管が多くあり、水道管のクリーニングが事業として成り立つと考え、韓国内釜山市に本店を有する被告とともに、韓国で水道管のクリーニングを共同事業として行うことを計画した。

本件機械はそのために株式会社藏田が被告に提供したものであり、その際、一九八九年八月一〇日ころ、日本語学アカデミーにおいて株式会社蔵田作成名義の譲渡書(<書証番号略>)が作成された。

もっとも、本件機械を株式会社蔵田が被告に譲渡するため韓国内に持ち込むと多額の関税がかかるため、形式上は、株式会社蔵田が原告に譲渡し、被告は原告から本件機械を借り受けるという形を採ることになった。

そのために貸主を原告、借主を被告、連帯保証人を株式会社蔵田とする本件機械の賃貸借契約書(<書証番号略>)を作成し、被告は、原告に対し、名義借用の代価として六〇万円を株式会社蔵田の口座に送金することになっていた(<書証番号略>)。

一方、株式会社蔵田は被告に対し、現物出資をなし、被告と資本比率四九対五一で合弁契約をすることになり、一九八九年九月八日、株式会社蔵田は被告と合弁投資契約を締結した(<書証番号略>)。

もっとも、前記水道管のクリーニング工事(韓国釜山直轄市上水道局の管更生工事)は一九八九年末から一九九〇年六月ころまでかかったが(<書証番号略>)、右工事により被告は利益を得ることができなかった。

また、株式会社蔵田が出すべき費用(五三〇〇万円)を被告代表者が立て替えた(<書証番号略>)。

二右認定事実によれば、本件機械の賃貸借契約に際して、本契約に関し争いが生じた場合には、日本国内の地方裁判所又は簡易裁判所をもって管轄裁判所とする旨の合意管轄の記載のある契約書(<書証番号略>)は、実際は株式会社蔵田が被告に本件機械を譲渡するものであるが、そうすると韓国内に持ち込む際に多額の関税がかかるので、これを免れるため、形式上、株式会社蔵田が原告に譲渡する形にし、被告が原告から本件機械を借り受けるという形にするために作成された内容虚偽のものであるから、右記載内容は被告を拘束せず、合意管轄の存在は認められない。

そして、外国法人を被告とする民事訴訟についての国際裁判管轄については、これを直接規定する法規もなく、またよるべき条約も、一般に承認された明確な国際法上の原則もいまだ確立されていない現状のもとでは、当事者間の公平、裁判の適正、迅速を期することを理念として条理に従って決定するのが相当である。

これを具体的にみれば、我国民事訴訟法の国内の土地管轄に関する規定は、それ自体国際裁判管轄について定めたものではないが、管轄の場所的分配として合理性を有するものであるから、これらのいずれかによって管轄権が我国に認められるときは、さらに国際的観点から配慮して右の条理に反する結果になるなど特段の事情の認められない限り、我国に裁判管轄権を認めるのが相当である。

まず、弁論の全趣旨によれば、被告は、日本国内に営業所を有していないことが認められるから、民事訴訟法二条に準拠して我国に裁判管轄権を認めることはできない。

もっとも、弁論の全趣旨によれば、原告は、日本に住所を有していることが認められるから、民事訴訟法五条の義務履行地の裁判籍が認められる余地があるが、前記認定のとおり、原被告間に本件機械についての賃貸借契約の存在が認められない以上、右賃貸借契約の義務履行地を基準にして裁判管轄を決めるのは、当事者間の公平の見地から相当ではなく、本訴においては民事訴訟法五条に準拠して我国に裁判管轄権を認めるべきではない。

三結論

以上の事実によれば、本訴は、我国の裁判所に裁判管轄権がなく訴訟要件を欠き不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官小林元二)

別紙機械目録

番号 品名   型式    数量

1 H&Bホース式グリットプラスト研磨機

A型KS―SBX 1セット

附属品

エアーコンプレッサー

PDS―265S―D

カラーテレビカメラ

KS―400

カラーテレビモニター

S―8480

テレビコントローラー

HV―480

ビデオレコーダー

HV―70D

ビデオコピープロセッサー

SCT―CP100

研磨機

KS―100

カッター

KS―300

2 H&Bホース式エアープラスト研磨機

B型KS―ABX 1セット

附属品

エアーコンプレッサー

PDS―265S―D

カラーテレビモニター

S―8480

研磨機

KS―200

ウインチセット

3 H&Bホース式パイプライニング機

KTO―L4EX 1セット

附属品

噴射ノズルスペアー一台

噴射ノズルホルダー

ノズルクリーナセット

4 送風機

KS―500 1セット

附属品

ホットエアー乾燥機

KS―600

5 ジョイントストッパー

M―20 1セット

附属品

ゴム論

Tボトル・ナット

6 管路探知機

PL―801GX―Ⅱ18 1セット

発信機・受信機・外径コイル付

7 管切断機キールカッター

N―450 1セット

75〜700m/m切断用予備プレート付

8 その他附属部品

H&B・BUHIN 1セット

以上

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